航空機の脱炭素化に向けた取り組み|水素燃料電池の開発状況と課題
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航空機の脱炭素化に向けた取り組み|水素燃料電池の開発状況と課題

Tuesday, 25 February 2025

航空機の脱炭素化に向けて、石油燃料に頼らない次世代航空機の開発が世界的に進められています。その中でも水素を燃料とした航空機は、持続可能な空の移動を実現する技術として重要な存在です。

今回は「乗り物の脱炭素への取り組み」をテーマに、水素燃料電池を用いた水素航空機の開発状況や課題、将来の展望を解説します。

水素航空機とは?エネルギー活用方法は2種類

水素航空機とは、水素をエネルギー源として活用する航空機のことです。水素をエネルギーとして活用する方法は、主に2種類あります。

 

<水素燃焼エンジン>

従来のジェットエンジン技術を基に、水素を直接燃焼させて推進力を得る方法です。極低温の液化水素をエンジン内で燃焼させ、生成された高温・高圧のガスを噴射して推進力を生みます。

 

水素のエネルギー密度は、石油由来のジェットエンジン燃料の約3倍といわれており、同じエネルギー量の場合約3分の1の重量で航空機に搭載できます。

 

(参考:https://modelon.com/ja/blog/hydrogen-propulsion-the-advantages-and-challenges/)

 

<水素燃料電池>

水素燃料電池は、水素と酸素を化学反応させ、電力を生成する発電装置です。これを機体に搭載し、発電された電力でモーターを駆動させ、プロペラやファンを回して推進力を得ます。

 

水素燃料電池で駆動する航空機が排出するのは水のみ。環境に優しい航空機として注目されています。

 

(参考:https://bright.nikkiso.co.jp/article/life/hydrogen-aircraft)

水素燃料電池システムを導入した航空機の特徴

水素燃料電池システムを導入した航空機は、CO2を排出しないなどの利点がある一方で課題もあります。ここでは、水素燃料電池システムを導入した航空機の特徴を見ていきましょう。

 

CO2に加え、窒素酸化物(NOx)も排出しない>

水素を燃焼させて推進する「水素エンジン」の方法は、CO2を排出しないものの、窒素酸化物(NOx)が多く排出されてしまうのがネックとなっています。

 

しかし水素燃料電池システムを導入した航空機は、CO2だけでなくNOxも排出しません。そのため、温暖化に加え大気汚染の改善も期待できます。

 

あわせて読みたい: カーボンニュートラルとは?実現を目指す理由や取り組みを解説

 

<静音性に優れている>

水素燃料電池は化学反応によって電気を生成し、発電した電力でモーターを駆動するため、燃焼プロセスが不要です。このため、従来のジェットエンジンのように動作音が大きくなることもなく、静音性に優れています。

 

<構成要素が少なく、メンテナンスや運用コストが軽減> 

水素燃料電池を搭載した航空機は、エンジンやガスタービンが不要であるため、可動部品が大幅に少ない特徴があります。構成要素も少ないため、メンテナンスや運用コストが抑えられるのも良い点です。

 

<重量があるため軽量化技術が必要>

構成要素が少ない一方で、燃料電池の重量が課題になっています。現在の技術では燃料電池システムや液化水素タンクが、従来のジェット燃料に比べて重くなりやすい傾向です。重量は燃費に影響するため、軽量化技術の進展が必要とされています。

 

(参考:https://www.drone.jp/news/2024072422245293586.html)

 

<短距離・中距離の小型機向き> 

水素燃料電池システムの航空機は、現在の技術では長距離の飛行が難しく、短距離・中距離向きとされています。

 

水素の質量は小さいものの、極低温のため熱損失と蒸発を抑えるには表面積の広い翼ではなく、胴体内に表面積の小さい貯蔵タンクが必要です。

 

ジェット燃料の多くは翼に格納されていますが、水素燃料を入れた場合、表面積の大きい翼は圧力が上昇し、翼が爆発する恐れがあります。

 

そのため、航続距離を伸ばす目的で液化水素を貯蔵するには、航空機の設計の見直しが重要課題です。

 

(参考:https://www.cnn.co.jp/travel/35213257-2.html)

水素燃料電池を用いた航空機の開発状況と課題 

水素燃料電池を用いた航空機の開発は、世界各国で進められています。ここでは、代表的な取り組みや開発状況を見ていきましょう。

 

<グリーンイノベーション基金事業で水素燃料電池電動システムを開発>

日本では2050年カーボンニュートラル実現」を掲げ、経済産業省とNEDOが主体となって行うグリーンイノベーション基金事業で、水素燃料電池電動システムの開発を行っています。

 

2024年〜2029年までの間に、液体水素を使用した4MW級の水素燃料電池電動システムを開発し、技術の成熟度レベル(TRL)6以上を目指す方針です。

 

また、座席数40席以上で1フライトあたりの航続時間3時間以上の運転を実証することや、巡航高度約20,000フィートで航続距離が500nm以上を実証することも目標としています。

 

(参考:https://www.nedo.go.jp/content/100975498.pdf)

 

<世界で初めて水素燃料電池を用いた航空機の飛行に成功> 

イギリス・アメリカに拠点を持つ、水素燃料電池の開発・製造を行うメーカーは、2020年9月に世界で初めて水素燃料電池を用いたエンジンを装備する、商用機の飛行に成功しました。

 

その後、2023年1月には19人乗りのデモフライトに成功しています。これは水素燃料電池を動力とする航空機として過去最高記録です。

 

今後はエンジンで発生した回転エネルギーを駆動系に伝える、パワートレインの出力600kWを目指して、水素燃料を使用したエンジンの開発を加速し、今後は90人乗りを実現していくとしています。

 

(参考:https://www.cnbc.com/2020/09/25/hydrogen-powered-passenger-plane-completes-maiden-flight.html

https://engineer.fabcross.jp/archeive/230222_hydrogen-electric-engine.html)

 

上記以外にも2035年に水素航空機を市場投入すると発表しているヨーロッパの航空機製造メーカーや、着脱可能で超軽量の燃料電池システムを開発するシンガーポールのバッテリー製造メーカーなども出てきており、世界各国で水素航空機の実用化に向けた水素燃料電池の開発が加速しています。

 

(参考:https://www.sbbit.jp/article/st/119354

https://engineer.fabcross.jp/archeive/210816_element-one.html)

水素航空機が旅客機として大空を飛躍する日は近い

水素燃料電池を導入した航空機の実用化に向けて、各国では着々と開発が進められています。CO2だけでなくNOxも発生しない水素燃料電池を使った水素航空機は、脱炭素化と持続可能な社会の実現に欠かせない乗り物です。

 

燃料電池の軽量化や機体の設計見直しなどの課題に取り組み、航続距離を伸ばすことで水素航空機が旅客機として大空を飛躍する日は近いのではないでしょうか。

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