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空の脱炭素化を目指す水素航空機とは?開発状況と将来の展望
Monday, 24 February 2025
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今回は「乗り物の脱炭素への取り組み」をテーマに、空の脱炭素化を目指す水素航空機の開発状況や将来の展望を解説します。
水素航空機の開発に力を入れている理由
従来の航空機はほぼ化石燃料を使用しており、日本では二酸化炭素(CO2)排出量の18.5%を運輸部門が占め、そのうち5%が国内航空から排出されるCO2といわれています。
気候変動対策として脱炭素化の取り組みが求められる中、国際民間航空機関(ICAO)は航空輸送分野でCO2の排出を抑える方針として「2024年以降に国際線の航空機によるCO2排出量を2019年比で15%削減」、「2050年には航空機によるCO2排出量ゼロを実現」などの目標を掲げました。
こうした背景から、水素を燃料とし燃焼時にCO2を排出しない水素航空機の開発が加速し始めたのです。環境負荷の低い持続可能な航空燃料として、廃棄物や廃材などを原料としたSAFも注目されていますが、従来の航空機よりCO2排出量を7~9割ほど軽減できるものの、CO2排出量ゼロの脱炭素化は困難とされています。
また、水素燃料は再生可能な植物由来の生物資源から生成されるバイオ燃料よりもコストが抑えられ、大量生産しやすいのも特徴のひとつです。
水素を燃料とする水素航空機はこれらの特徴を持つことで、化石燃料を動力にした従来の航空機と比べて環境負荷が少なく、次世代の持続可能な航空輸送の中心的な存在になるとして期待されています。
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水素航空機に関する開発の現状
水素燃料を大型の旅客機に導入する場合、水素ジェットエンジンの開発が必須になります。それに伴い、安定的に水素を燃焼させる水素燃焼器や液体水素を精密に制御してエンジンに供給する液体水素電動ポンプ、液体水素を貯蔵するタンクの開発も重要です。
航空業界の脱炭素化の実現と、日本の航空機産業の競争力強化を目指し、NEDO(※)は「次世代航空機の開発プロジェクト」を推進しています。
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プロジェクトでは、2025年度までに前述した技術を確立し、水素ジェットエンジンの技術実証の適用を目指しています。ここでは、プロジェクトに基づいた開発状況を見ていきましょう。
※NEDO:新エネルギー・産業技術総合開発機構
<水素航空機向けコア技術の開発>
水素航空機向けのコア技術の開発として、主に以下の3つの開発が進められています。
【水素燃焼器】
水素の安定的な燃焼を実現するために水素燃焼器を開発しています。水素燃焼器は、窒素化合物(NOx)排出量の低減や、燃焼器内部で生じる圧力変動を抑える振動燃焼抑制の役割を担うものです。
2024年10月には、航空機メーカーが開発した水素燃焼器を搭載して、水素燃焼運転試験が実施されました。
水素燃料のみで着火から回転上昇、定常運転、回転下降、停止までの一連の動作において安定した運転が可能であることがわかり、小型航空エンジンの水素100%燃料による運転試験に成功するなど、開発は順調に進んでいます。
(参考:https://www.kenkai.jaxa.jp/research/hydrogenfuel/hydrogenfuel.html
https://www.khi.co.jp/pressrelease/detail/20241017_1.html)
【液化水素電動ポンプ】
燃料タンク内の液体水素を昇圧してエンジンポンプへと送る、電動ポンプの開発を行っています。航空機用のポンプは小型かつ軽量が求められるほか、水素は昇圧しにくい特性があることから、従来のポンプより高速回転の電気モーターを開発しました。これによって圧力や流量を適切に確保できるとしています。
熱収縮率の異なる金属でつくられるポンプを、-163℃などの極低温液化水素が入った状態で高速回転させるには高い技術力を要しますが、2023年6月に行った実証実験で成功を確信している状況です。
(参考:https://www.nikkiso.co.jp/news/2023/post-75.html)
【液化水素燃料貯蔵タンク】
従来の燃料タンクの重量を半減させる液化水素燃料貯蔵タンクの開発に取り組んでいます。
具体的には、貯蔵燃料の半分以下の重量を目指す方向です。
液化水素タンクが重くなると航空機全体の総重量が増え、エネルギー消費量が増加し、燃費が悪化します。
また、タンクの重量が軽くなることで、搭載可能な液化水素の量が増えて航空機の航続距離の延長が期待できます。
(参考:https://www.nedo.go.jp/content/100938958.pdf)
<航空機主要構造部品の複雑形状・飛躍的軽量化の開発>
水素航空機の軽量化と強度の向上を目指した主要構造部品と形状の開発を行っています。
2035年以降に導入される中小型航空機の主翼などの重要構造部品につき、既存の部品である金属合金から約30%の軽量化、既存の複合材部品との比較から約10%の軽量化を目指しています。
また燃費向上に向けて、複雑形状・一体成形に対応するため、設計許容歪を1.1倍~1.2倍にする強度向上を研究しているところです。
これらの取り組み以外にも、液体水素燃料を用いた燃料電池電動推進システムの開発なども着々と進行中です。
(参考:https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-next-generation-aircraft/
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水素航空機の実用化に向けた技術開発の進展に期待!
次世代航空機の開発プロジェクトによって、NEDOや各メーカーの研究開発が加速し、水素航空機向けコア技術や軽量構造部品が誕生しています。
実証実験では成功結果が出ており、環境負荷の低減だけでなく、産業競争力の強化が期待されるところです。空の脱炭素化に向けて、水素航空機は旅客機としての実用化を目指し今後さらに発展していくことでしょう。