脱炭素化に向けて開発が進む水素電車とは?現状と展望を解説
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脱炭素化に向けて開発が進む水素電車とは?現状と展望を解説

Monday, 10 March 2025

カーボンニュートラルの実現に向けて、乗り物関連の脱炭素化が加速している中、鉄道業界も化石燃料に頼らない運行方法を模索しています。特に推進されているのが、水素を動力とした「水素電車」です。

走行する際にCO2を排出しないため、複数の鉄道事業者が水素電車の実用化を目指し研究や開発を進めています。

今回は「乗り物の脱炭素への取り組み」をテーマに水素電車とは何か、日本の現状や課題に加え、海外の現状も解説します。

水素電車の仕組みや特徴

水素電車とは、水素を動力源として使用し走行する列車のことです。列車に搭載されたタンクに補給した水素を燃料電池装置に供給し、空気中の酸素との化学反応により発電します。この電力でモーターを動かし、車両を走行させる仕組みです。

 

走行時にCO2を排出せず、水のみ排出されるため、環境に優しい電車といわれています。また、従来のディーゼル車両に比べて騒音が少なく、静かで快適に乗れるのが特徴です。

 

さらに、水素電車は電化されていない路線でも走行可能なため、既存の路線を活用できます。ディーゼル車両から水素車両に置き換える際にも、電化工事が必要なくコストを削減できます。

 

加えて、一部の水素電車はリチウムイオン電池などの蓄電池を搭載し、加速時や登り坂などでの電力補助を行っているのも特徴です。

 

(参考:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2402/10/news038.html

https://www.cummins.com/jp/news/2021/08/31/top-5-reasons-hydrogen-has-place-future-rail)

日本における水素電車の現状  

日本の鉄道業界では、脱炭素社会の実現に向けて水素電車の実用化を目指し、研究や開発を進めています。ここからは、日本における水素電車の現状を見ていきましょう。

 

あわせて読みたい: カーボンフットプリントとは?目的や取り組み、課題を解説

 

<国内初の水素ハイブリッド電車を開発>

JR東日本では2022年2月に国内初の水素ハイブリッド電車を開発しました。水素ハイブリッド車両とは、水素を燃料とする水素燃料電池と蓄電池を組み合わせた車両のことです。

 

水素燃料電池による電力や、蓄電池に充電されたブレーキ作動で生まれる電力を使って車両を動かす仕組みになっています。走行中の振動や衝撃にも耐えられるよう丈夫な水素タンクを使用し、緊急時は外部に放出する仕組みを搭載し、安全性に配慮している点も特徴です。

 

現在は南武線や鶴見線で走行テストを開始しており、時速100km、最大140kmまで走行できるといいます。2030年の実用化を目指し、それまでに航続距離を2〜3倍伸ばすことを目標としています。

 

同社が稼動するディーゼル車両、450両をすべて水素ハイブリッド車両に置き換えた場合、年間約6万トンのCO2排出量を削減できる見込みです。

 

(参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC165YE0W2A210C2000000/)

 

<水素燃料電池車両の開発と総合水素ステーションの設置へ>

JR西日本では、ディーゼル車両から水素燃料電池車両への置き換えを目指すとして、総合電機メーカーや自動車メーカーと共に新型車両の開発に取り組んでいます。

 

同社は2021年に、ディーゼルエンジンで発電した電力でモーターを駆動させる「電気式気動車」を非電化区間に導入していますが、このエンジン発電機を「燃料電池+水素タンク方式」に置き換える方針です。

 

また、水素の供給事業を行う企業と連携し、岡山地区に「総合水素ステーション」を設置すると発表しています。2030年代早期の営業運転開始を目指し、開発を進めているところです。

 

(参考:https://trafficnews.jp/post/132896)

日本における水素電車の課題 

日本では水素電車の開発が進められていますが、課題が多い現状があります。以下は水素電車に関する、主な課題です。

 

・水素補給の問題

・夏季の冷却

・水素インフラの整備

・コストの高さ

・安全性の確保

 

大きな課題のひとつが、水素補給です。水素タンクへの充填時間は、水素の圧力が低いほど短縮されますが、1回の充填時間に3~4時間かかるため、水素自動車のように3分程度の充填時間を目指すのが課題です。

 

また、水素が発電すると熱が放出されるため、タンク内の温度上昇を抑えるためには冷却が必要になります。高い出力が求められる山岳路線はトンネルが多く、特に夏は熱がこもりやすいのが難点です。

 

送風機による冷却は消費電力が上がってしまうため、解決策が求められています。さらに水素電車普及のためには水素ステーションの設置拡大に加え、車両や水素製造、維持費などのコストの高さ、水素を貯蔵・運搬する際の安全性の確保が課題になっています。

 

(参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD221P90S4A420C2000000/

https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk7_000044.html

https://news.tv-aichi.co.jp/single.php?id=4207)

 

海外の水素電車の状況もチェック!

ドイツでは2022年に世界で初めて水素電車の運行を開始しました。フランスの車両製造メーカーが開発し、8,600万ドル(約117億)の購入費の一部をドイツ連邦政府が負担しています。

 

ドイツ北部のクックハーフェン市からブクステフーテ市までの区間を運行中です。最大乗客定員数は約300人、最高時速は140km、航続距離は約1,000kmで、水素燃料を満タンに充填することで1日中走行可能とされています。

 

電車の屋根部分に搭載された水素燃料電池で生まれた電力や、ブレーキをかけたときのエネルギーは車載バッテリーに蓄電される仕組みです。

 

現在はドイツを皮切りにカナダやスウェーデンなどヨーロッパ8カ国で運行を行っています。

 

(参考:https://eleminist.com/article/2226

https://eleminist.com/article/3347)

水素電車は脱炭素社会に欠かせない乗り物に 

水素電車は走行中にCO2を排出しないため、交通機関の新たな選択肢として現実化しています。海外で運行が開始されているように、日本での実用化も迫っている状況です。脱炭素化を実現する乗り物のひとつとして、水素電車を選択する日も近いのではないでしょうか。

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